Research    
   ●  Research...................................................................................... 研究内容の紹介です

  木質バイオマスの生分解機構
  地球温暖化を防ぎ、脱化石資源を目指す取り組みが産業や社会の在り方を大きく変えようとしています。そうした中で、植物バイオマスをバイオ燃料としてだけでなく、様々な化成品としてより高度で効率的に利用する為の技術開発はこれからの重要課題です。植物バイオマスの大部分を占める木材は、「天然の防腐剤」とも呼ばれる難分解性の高分子リグニンによって微生物による分解から守られています。私たちは生態系の中で唯一高分子リグニンを分解できる白色腐朽菌と呼ばれるきのこの仲間について、遺伝子工学的、蛋白質工学的、ゲノム工学的な方法で木質バイオマス分解機構の謎を解き明かすための研究を行っています。
  近年のゲノム解析の普及により、代表的な白色腐朽菌ではポストゲノム解析を用いた研究が花盛りです。当研究室では、それらに加えて、多重遺伝子破壊系の開発や効率的な順遺伝学、CRISPR/Cas9の導入などにより、ポストゲノム解析だけでは超えることのできない壁を越えて、リグノセルロースの生分解の全貌を解明することをめざしています。
  きのこのサイエンスとテクノロジー
  木材をはじめとする有機物の分解・資化だけではなく、樹木との共生など地球共生系の炭素循環において重要な働きをしているきのこですが、その基本的な生物学的性質は十分には解明されていません。パン酵母や麹菌などの子嚢菌類と異なり、多くのきのこが属する担子菌類の基本的な遺伝子発現、タンパク質の翻訳・修飾と分泌など、基礎生物学的にも興味深い様々な課題について研究を行っています。また、遺伝子組換えに当たらないより安全性の高いゲノム編集方法の開発を通じて、環境への遺伝子汚染を起こさない無胞子株の分子育種や、ヒト型の医療用糖タンパク質の発現への挑戦など、担子菌類の様々な特徴を活かした新しいバイオテクノロジーの開発に向けて研究しています。
  きのこの細胞壁工学の確立
  一般的に糸状菌の研究では酵母や麹菌などの子のう菌類をモデルとして用いた研究が進んでいます。一方で、同じ糸状菌の仲間でも、白色腐朽菌のような担子菌類では、未知の部分が多く残されています。我々のこれまでの研究の中で、実はよく調べてみると、担子菌類と子のう菌類では形態は似ているものの、基本的な構造や生物機能、情報伝達系などがかなり違っていることが明らかになってきました。
  本研究は生化学、分子生物学的手法によって担子菌きのこの細胞壁と外界との間での物質やシグナルのやり取りのメカニズムを解明し、きのこ類における「細胞壁工学」と呼べる新領域を確立することをめざしています。
 
  マイセリアルマテリアルの開発
  近年、白色腐朽菌の菌糸体を材料として、マッシュルームレザーや梱包材、建築フォーム、代替肉などの新しい材料や用法の開発が盛んに進められています。エルメスやアディダス等のファッションブランドや自動車産業での採用が進められており、世界のトレンドになってきています。それは、白色腐朽菌の菌糸体が林産系および農産廃棄物を培地として再生産することができる、サスティナブルでカーボンニュートラルな新素材として注目されているからです。
  本研究では、担子菌類のゲノム工学技術と細胞壁研究における当研究室の先進性を生かして、分子遺伝学的、分子生物学的手法を用いて天然の菌を用いては達成できない新しい機能を持つ材料の開発を行っています。韓国の大学や国家機関とも国際共同研究を立ち上げ、実用化を視野に入れた研究を強力に進めています。


京都大学 農学研究科 森林科学専攻 森林生化学分野
since 2003